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Selfishly

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『駄目な男』 act3「逢引」


~ 駄目な男 ~




         Act3 「逢引」

H18,9/24 23:15




「んじゃあ、ここの配置は お前の言うのに変更な。」

エドワードは 広がる設計図に赤でマークを入れる。

「うん、これでだいぶんと便利よくなると思うんだ。」

今1度、まだ紙に描かれただけの街を、
エドワードは嬉しそうに眺める。

「もう少しだな。」

「うん、もう少しだね。」

エドワードとアルフォンスが眺めているのは
来期に拡張を始める住宅のプランだ。

現在、居住希望が殺到するリゼンブールでは
その希望に応えるために、都市開発を行なう計画だ。
設計は、今は 都市開発では右に出るものがないと言われている
アルフォンスが行なっている。
現在のリゼンブールも、彼が創っていったものだ。

「でさ、兄さん。」

「うん?なんだ?」

この後の予定をぼんやりと考えていったエドワードが
声をかけてきたアルフォンスの方を向く。

「今週末は、アイツ帰ってくるの?」

「・・・ロイか?

 いや、今週末は行政が滞ってるらしくて
 無理みたいなんだ。」

エドワードは気拙そうに返事を返す。
アルフォンスは、ロイの事を快く思っていない。
自分達の恩人である事は、頭では理解しているが
その後のエドワードの苦しみを見てきただけあって、
エドワードのように単純には許せないのだ。

リゼンブールに戻って街の復興に力を注ぎ、
やっと平穏な時間が戻ってきたと思っていたら
ある日、アイツはちゃっかりと戻ってきてて、
何食わぬ顔で、エドワードの家に住んでいた。

最初にエドワードを訪ねて家に行った時に
アイツが出てきた時の驚きは、今でも忘れられない。
そして、
何よりも腹がたつのが、あれほど傷つけられて尚
ロイを あっさりと許しているエドワードだ。

二人の間で、どんな事があったのかは詳しくは知らされてはいないが、
その後のエドワードの傷つきようは並みではなかった。
遠くシンの国にもフラフラと行ってしまう位、
あの男と距離をおかねば立っておれなかったエドワードが
何故も、こう簡単に アイツの事を許したんだろう。

アルフォンスは、腸が煮えくり返る程の怒りを感じていたが、
当の本人のエドワードが、いいと言うものをどうしようもない。
が、決して納得しているわけでも
認めているわけでもないのだ。

『今度、兄さんを傷つけたら
 その時は、例え兄さんが許しても 僕が!』

殺気さえ感じさせられるアルフォンスの気配は
ロイも気づいているだろうに、
それでも、全く気にする風でもないのが
更に、アルフォンスの怒りに油を注ぐ。

黙り込んだアルフォンスの醸し出す不穏な空気に
エドワードは、たじろぎながらも声をかける。

「アル?」

途端、明るい顔でエドワードを振り返るアルフォンスは
すでに、条件反射のようなものだ。

「アイツが帰って来ないんだったら、
 兄さん、今週こそは 僕の家に来てくれるよね?」

可愛くおねだりする姿が、様になる二十歳をとうに超えた男と言うのも
なんだか寒いが、エドワードの目には いつまでも、
可愛い小さな弟に見えるのだろう。
・・・例え、体格では とうに越されていても・・・。

「えっ・・・、いや、  そのぉ それが・・・。」

言いよどむエドワードに、アルフォンスは先手必勝とばかりに
口を挟む。

「トリシャも、マースも すっごく会いたがってるんだ。
 兄さん、最近全然 お泊りしにきてくれないしさ。」

「う・・・、うん、ごめん・・・。」

俯くエドワードに、後一息とばかりに声をかけようとした矢先に、

「な~に、あんたはエドワードに我がまま言ってんのよ。」

「ウィンリー。」
エドワードが、ほっとしたように顔を振り向かせる。

「エド、いいのよ こんな馬鹿亭主の事なんか聞かなくて。

 今週は エドがロイさんの所に行ってあげるんでしょ?
 週末は、特に今回は会議もないし、
 月曜も 夕方の自治会議にさえ間に合えば大丈夫だから
 ゆっくりしてらっしゃい。」

ウィンリーは、トレーに乗せてきたコーヒーを
机に置きながら、エドワードに助け舟を出してやる。

「うん、サンキュー。」

エドワードが、はにかむようにウィンリーに笑い顔を見せる。

「ウィンリー! 何で口をはさむんだよ。
 いつもアイツが独占してるんだから、
 たまには、僕らが誘ってもいいじゃないか!」

「な~に、子供みたいな事言ってるのよ。
 それに、構って欲しいのは あたし達じゃなくて
 あんただけでしょ。
 
 いい加減に、その重度のブラコン直したらどうなのよ。」

エドもいい迷惑よねと同意を求められるが、
エドワードは 素知らぬ顔でコーヒーを飲む。

ここで、頷いたりした日には 
後々、どんな目に合うか・・・。
アルフォンスは、昔から 外見に反して
後に引くタイプなのだ。

仲良く(?)夫婦喧嘩を始めた二人に断って
この後のスケジュールをこなす為に家を出る。

今日のうちに詰め込んでおかないと
明日の金曜の夕刻には ここを経てない。
リゼンブールからセントラルは、今では直行便が出てはいるが
それでも、結構な時間がかかる。
夕刻に出れれば、日付が変るまでには 何とかセントラルに着ける。
亀よりも首を長くして待っているだろうあの男の傍に
少しでも長く居てやりたい。



週末に別れを惜しみ惜しみしながら戻っていったロイは、
週が空けると 泣きそうな声で電話をしてきた。

戻ると、トラブルが発生しており
対応に追われる事になったそうで、
メドが立つまでは、セントラルを離れる事が出来なくなり
今週末には帰れそうにないと切々と訴える声が
余りにも悲愴で、思わずエドワードは笑ってしまったのだ。

『君は、そこで何故笑うかな!
 私が これほど落ち込んでいると言うのに
 君は 寂しくないとでも、言うのかね。

 まっ、まさか・・・私に逢いたくない・・とか。』

より一層暗くなる声に、エドワードは またしても
笑いが込み上げてくる。

「何言ってんだよ。
 そんなわけないだろ。」

『しかし・・・。』

不安が拭えないのか、ロイの声は小さくしぼんでいる。

「そんなに、大げさに嘆かなくても
 俺が そっちに行けば済むことだろ?

 まぁ、こっちに居るほどはゆっくりと過ごせなくても
 顔は見れるしさ。」

どう?と続けたエドワードの言葉に
ロイは 1も2もなく賛成したと言うか喜びの奇声を上げた。


今の所、リゼンブールでは 大きな事件も案件もない。
ロイが動けないなら、エドワードが動いてやるしかない。

それにあの調子では、2週間は使い物にならなくなるのは明白だ。
そうなればなったで、周囲への被害は甚大だろう。

『全く あの男は、自分が行政のTOPである事の自覚が
 薄すぎるのではないだろうか。』

そんな風にあきれたりもするが、結構 エドワードも
ロイに逢いにいけるのを楽しみにしていたりする。

離れていた月日は 長かったのに、
今は ほんの少しの不在が、あの頃より寂しく感じるなんて
人とは欲張りな生き物だなと、暗闇に流れる社窓に目をやりながら考える。
出来れば、毎日でも会っていたい。
逢えなかった月日を取り戻せる位に、
話して、触れて、微笑みあって 寄り添っていたい。

けど・・・、と考える。

俺には俺の、アイツにはアイツの責任があるし
やりたい事もある。
頭と心は 上手く歯車が噛みあわない事もある。
望んだ事が、全て叶うわけでも、手に入れれるわけでもない。
それは、エドワードが身を持って知った事でもある。

今はまだ・・・、そう、今はまだ無理なのだ。
全てを放り出してまで、アイツの元に居てはやれない。

いつか時がきたら・・・、そんな風に考えながら
待ち焦がれているだろう愛しい男の事を考える。




セントラルの駅は 1日中動いている。
遠路、近路の駅から入る列車はひっきりなしで
たとえ深夜と言えども、人が途絶える事はない。

エドワードは久しぶりに降り立った駅に感慨深げに周囲を見回す。
以前ここから旅立った時には、もう2度とこの駅には
来ないだろうと思っていた。
振り切るように出た駅の想いでは、今でも胸の奥に
痛みと共に残っている。
それが今はこうして、喜びと共に足を運ぶことになろうとは。

エドワードはホームに降り立つと、
出口を求めて周囲の人間と同じように
流れに合わせて歩いて行こうとする。
その途端に、グイッと腕を引っ張られ
人の流れから引き剥がされていく。

「ちょ、ちょっと何だよアンタ!
 いきなり何するんだ!」

歩き出している人の数人が、何事かと振り返る様子を見せる。

「シィー、あんま目立つのは拙いんだよ。」

かけられたその声に、エドワードは マジマジと相手を見る。

「まさか・・・、ハボック少尉。」

「ご名答~!
 相変わらず元気だなお前も。」

サングラスをずらして覗かせる目は
昔と変らず優しい光を湛えている。

「んでもって、今は 少尉じゃないんだから
 ジャンでいいんだぜ。」

「あっ、そう言えばそうか。」

ついつい懐かしくて、昔の呼び方で声をかけてしまったが
ハボックは すでに軍を退役して、
今は ロイの護衛に付いている。

「で、ここで話してるのは目立つから
 ちょっと場所を移動しようぜ。
 
 待ち焦がれて苛苛しているお方もいるからな。」

そう言ってハボックが先導した出口は正規のルートではなかった。
職員が 開けて待つ扉を何度かくぐると、
どうやら駅とは 全く逆の方向に出れるようだ。
遠く煌々とした灯りがともる建物をよそに、
ハボックは 物慣れた様子で、通路を進んでいく。

しばらくすると、最後の扉なのか
厳重な鍵を外して待つ職員に見送られて
外の世界に出た事を知った。

出口の正面には、黒塗りの車が1台。
リゼンブールでもおいそれとは目にしない高級車な事は間違いない。

「ほいよ、お待ちかねの方が待ってるぜ。」

そう言いながら、後部座席の扉を開けてくれる。
てっきりハボックも一緒に乗り込むのだと思っていたら
さっさと扉を閉めて前に戻っていった。

8人くらいが 迎え合わせにゆったりと座れるだろう広い車内は
今は 二人しかいない。

中に入るなり、抱きすくめられて口付けをされる。
多分 そうなるだろうと思っていたから抵抗はないが、
どうりでハボックが一緒に乗り込んでこなかったわけだ。

発進する車の振動も微かで、
それに気づく事も無いまま しばらくは無言で互いを確かめ合う。
息が上がる頃になって、漸く納得したのか
ロイは エドワードを抱きかかえながら
「お帰り」と囁いてくる。

ここはエドワードのホームではないが、
ロイが居る所がエドワードの戻る場所なのだ。

「うん、ただいま。」

嬉しそうに返された挨拶に、さらに気を良くしたロイが
再度、口付けの続きを強請ろうとした矢先に
車が 衝撃もなく静かに止まった。

「なんだ、もう着いたのか。」

出鼻を挫かれて、少々 不満そうに言う。

しばらくすると、ハボックが扉を開けて
二人に降りるようにと声をかけてくる。

「ほい、お疲れさんでした。
 じゃあ、俺は 明日の昼頃に迎えにくればいいですよね。」

「ああ、ゆっくりとで構わないぞ。」

「時間に遅れないで下さいよ。
 うちのカミさん、怖いんですからね。

 じゃあな、エドワード!
 また、明日。」

エドワードが、降ろされて 
目の前に聳える屋敷にあっけに取られているうちに
ハボックは 挨拶をして去っていった。

「どうした?」

屋敷を見て、急に黙り込むエドワードに
ロイが不審そうに声をかける。

「あっ、いやその 凄い屋敷なんで
 ちょっと、驚いた。」

ロイは 屋敷には 特に感慨もないのか、

「ああ、広くてめんどくさいだけだ。

 もっと小さな所が良かったんだが、
 これが決められた官舎らしくてね。
 まぁ、少々不便でも仕方ないさ。」

ロイは 手ずから門の鍵を開けて中に入るように示す。

屋敷は 人気もなく、閑散としている。
まさか、これだけの屋敷だ。
雇い人が誰も居ないなんて事はないだろうが・・・。

しばらく歩いて家の玄関までつくと、
ロイが また鍵を差し込んで扉を開ける。

「えっ?ロイ、ここって雇い人とかは・・・。」

広いホールも電灯が消されており、
ロイは わざわざ電気を点ける事もなく
エドワードが迷わぬように手を引きながら、
横手の部屋に入っていく。

部屋に入ってやっと電気をつけると
そこは、応接室と言うよりは 普通の家庭のリビングのような造りで
隣にキッチンが見える。

エドワードに腰をかけて待つように言うと
隣のキッチンに入ったロイが
ワインとグラスを手に戻ってくる。

1っきりのソファーに並んで座ると
中身を注いだグラスを渡す。

「ここには誰も居ないさ。
 住んでいるのは私だけだ。」

そんな事を事も無げに話す。

「この広い屋敷に・・・。

 でも、維持とかも大変なんじゃ・・・。」

「別に この部屋と、隣の寝室位しか
 使ってないからね。
 まぁ、戻ってこれない事も多いから
 2部屋もあれば十分だろう。」

「えっ、でも お客とか招待した時とかは・・・。」

「ああ、そういう時は 正規の部屋を使ってる。
 臨時の雇い人とかの手配も
 ホークアイ議長がしてくれるしね。」

ロイは どうでも良さそうに返事をし
それよりもと、エドワードの顔を嬉しそうに覗き込む。

「1週間ぶりだねエドワード。」

さも愛おしそうにエドワードの髪を梳きながら
そっと被さってくる。
エドワードは 心に燻る感情に一旦フタをしながら
久しぶりの再会を喜ぶロイに付き合う事にする。

翌日、朝まで抱き合ってた事が仇になり
ハボックが迎えにくるギリギリまで
二人で惰眠を貪っていると
鳴らされるチャイムに、エドワードとロイが
飛び起きておおわらわしながら用意を整える。

身なりを整えにロイが行っている間、
エドワードは何か朝食を持たせようとキッチンに行くが、
まるで使われた形跡のない綺麗に磨き上げられたキッチンからは
何一つ役に立ちそうな物は見つからなかった。

その事に愕然としながら、玄関でエドワードを呼ぶロイの声に反応する。

「エドワード、今日はなるべく早く帰るから
 どこかに食事にでも行こう。」

すでに玄関を開けて出て行こうとしているロイに
エドワードは 小走りに寄り、
「いってらっしゃい」の挨拶を声かける。

ロイは 嬉しそうに手でエドワードを招く。
エドワードが 不思議な顔で近づいてくると、
その頬を挟んで、口付け、
名残り惜しそうに、最後に両頬にも口付けると

「いってくる。」と声をかけて背を向けて歩き出す。

ハボックにも見られていたと思うと恥ずかしさで真っ赤になるが、
ふと言い忘れた事を叫ぶ。

「ロイ!
 今日は 家で食事にするぞ。」

エドワードにかけられた言葉に、
ロイは嬉しそうに笑った後、大きく手を振って車に乗り込んだ。

エドワードは慌しくさったロイを見送った後に
一人で屋敷に戻っていった。

扉をパタンと閉めて中を見回すと、
余りに寂寥感に漂う屋敷に、背筋が震えてくるのがわかった。

そして、込み上げてくる涙を止める事もできなかった。

ロイと別れた後も、エドワードには 友人のシンも、
弟のアルフォンスも、幼馴染のウィンリーも
可愛い甥や姪もいた中を幸せに過ごしてきた。

確かに傷つき、立ち直るのにはかなりの月日を要したが、
それでも、常に温かく見守る人たちが傍にいたし
心温まる家もあった。

でも・・・、でも ロイには何もなかったのだ。
この広大な屋敷に、ポツンと独りで住み、
寝に帰るだけが、彼にとっては家だったのだ。
エドワードと離れていた間の彼にとって
生きて生活をすると言う事は
一体 どれ程の意味があったのだろう。

この屋敷を見る限り、何も・・・本当に何も
意味を見出せなかったのではないだろうか。

そして今も、週に1度だけエドワードの元に帰るだけで
残りの日々の大半を、この屋敷でじっと耐え忍んでいる。

エドワードは 涙と一緒に抜けていく力に
ペタンと床に座り込む。

自分は知らなかったのだ。
彼には信頼できる部下も、親身になってくれる副官もいた。
華々しい彼の活躍に広がる交友関係が
きっと彼を支えてくれていると思っていた。
彼も自分同様に、周囲に慰められ見守られているものばかりだと
思っていた。

どうして同じだと思っていたのだろう。
あの時に傷ついた深さが、自分と同様だと。

エドワードは 自分の判断で実行した、
けどロイにとっては、突然に起こった事故なのだ。
出来れば避けたく、有り得ないでいて欲しいと思うような。

その傷の深さを まざまざと見せられた気がして
エドワードは 涙で霞む目で、広く何も無い、生まれない空間を
ただただ凝視し続けていた。




ロイが待ち望んだ帰宅を迎えたのは、
温かく灯りがともる屋敷の姿だった。

ここに灯りがともって迎えられるなど、
ロイの記憶には ついぞなかった。
いつも、暗闇の中を戻り
日が昇る頃には 出かけていく。

いつも無感想に眺めていた屋敷が
なんだか、家のように思えるのは
やはり待つ人が居てくれるからだろうか?

屋敷の門を開けると、エドワードが 玄関で迎えてくれている。
それに嬉しそうに手を振ると、出来るだけ急ぎで近づいていく。

「お帰り、お疲れさん。」

「ああ、ただいま。」

軽く口付けると電灯の灯るホールに足を踏み入れる。

物珍しそうに周囲を見渡すロイに、
エドワードは仕方ないなという風に苦笑を浮かべる。
きっと今のロイには、この屋敷が 違う風に見えるのだろう。

「ほら、腹減ってるだろ?
 キッチンに準備してるから、先に着替えてこいよ。」

エドワードに促されながら、ロイは 呆然と頷いて
寝室に入っていく。

ロイは着替えながら キッチンから聞こえる音に耳を澄ます。

この屋敷に来て、行事意外で 自分が立てる音意外を聞いたのは
初めてだった。
誰かが一緒に住んでいてくれると言う事は、
これほど嬉しく穏やかな気持ちを生むものだっただろうか。

ロイにとっては ここはホームではなく、
あくまでも自分に振り分けられた官舎でしかなかった。
最近は エドワードが住む家こそが 自分のホームだと
思ってもいた。

でも、この屋敷でも ちゃんと『家』になるのだ。
一緒に生きてくれる人が居さえすれば。

そんな事に今更ながら気がついた。

キッチンに行くと、エドワードが忙しそうに働いている。
ロイは 邪魔にならないように
そっとその姿を盗み見る。

「なに突っ立てるんだよ。
 ほら、さっさと座る。

 折角の料理が冷めちまうぞ。」

エドワードが 笑いながらロイを誘う。

彼が 自分の元に戻ってくれて本当に良かった。
ロイは、目の前で微笑む相手を見て
つくづく思い知らされた。
自分独りでは、生きていけないと。





翌朝、仕事に出かけるロイに
エドワードは このまま戻る事を伝える。
多分、ロイが戻ってきた頃には居ないだろうから
先に伝えといた方が良いだろう。

ロイは 酷く寂しそうで残念な顔をしたが、
「気をつけて戻っておいで。」と
優しく触れるだけのキスをしながら返事を返してくれた。

「じゃあ・・・。」と後ろ髪が引かれる様に背を向けるロイに

エドワードは、意を決したように声をかける。

「ロイ!
 俺 ここに越してきてもいいか?」

ロイは ノロノロと進めていた足をピタリと止めると
まさかという思いで振り返る。

「俺、リゼンブールの家は引き払うよ。

 んで、ここでアンタと一緒に暮らしたいんだけど、
 駄目・・・かな?」

躊躇いがちに聞いてくるエドワードの言葉は
ロイの頭に言葉として入ってくるまでには
少々 時間がかかった。

何も言わずに じっと自分を凝視しているロイに
エドワードは迷惑だっただろうかと困惑を浮かべる。
相手は 立場も地位もある人間なのだ。
リゼンブールのような田舎の街とは違って、
世論というものもある。
やはり、無茶な事を言ってしまったのかもと
後悔をする。

「エドワード・・・・、
 それは本当か?

 本当に ここで私と一緒に住んでくれるのかい?」

エドワードは、その言葉に はっとなりロイを見る。

ロイは まるで信じられないとばかりに
驚きを浮かべて、エドワードを見ている。

「う、うん。
 アンタに迷惑がかかれなけらば・・・。」

控えめに返事をするエドワードの言葉が
ロイに届くや否や、
ロイは 駆け寄り、エドワードをきつく抱きしめる。

そして、まるで小さな子供にするように
身体を持ち上げて、一緒に廻りだす。

「ちょ、ちょっと~!
 降ろせよ!
 恥ずかしいだろう!」

エドワードの抗議の言葉にも、ロイは 喜びを隠し切れない。

「何が迷惑なものか!

 私が ひざまづいてお願いしたかった位だ。」

ストンと地面に降ろしたエドワードを、
かき抱くように抱きしめて喜びを伝える。

「本当に、一緒に暮らしてくれるんだな。
 毎日、こうして抱きしめる事も
 顔を見る事も?」

嬉しそうに聞いてくるロイに、
エドワードは 何度も頷いてやる。

「うん、それだけじゃないぜ。
 ご飯も一緒に毎日食べれれば、
 読書も出来る。 
 芝生に転がって、日向ぼっこもできるさ。」

そうエドワードが話してやると、
ロイは さらに強く抱きしめて、エドワードの肩に顔を伏せる。

「ありがとう、ありがとうエドワード。

 そして・・・、済まない。」

伏せられた肩から、小さな震えが伝わってくる。
ロイには エドワードが犠牲にするものの大きさがわかっている。
同じ立場の人間として。

それを申し訳ないと思う以上に、
エドワードが 傍に居てくれる事が嬉しくて、愛おしくて
どうしようもないほど感動している。

エドワードは、静かに震えている男の髪を梳いてやる。

「ああ、これからは独りにしない。
 ずっと一緒に傍にいような。」


エドワードにも夢もあれば、やりたい事もある。
けど、それは全て この目の前の愛しい男に比べれば
たいした事でもないように思える位には、
この男を愛しているのだろう。

自分が居なければ、きちんと生活する事の意味も
生きる事の意味も放棄してしまうような駄目な男だ。
エドワードが 傍で見といてやらないと、
危なっかしすぎる。

それに、今度は二人でできる事を作ればよいのだ。
セントラルのロイの傍にも、
エドワードが ロイと一緒に創っていけるものが
きっとあるはずだ。
それも、今からの楽しみの1つだと
燦燦と降り注ぐ日差しのかな
泣きつかれて、それを抱きとめているエドワードは
優しく微笑んだ。


[あとがき]

なんだか、すっかりと気にいってしまった
『駄目な男シリーズ』。
思わずシリーズになってるのも、
駄目なロイさんが、書きやすいから??




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